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東京地方裁判所 昭和37年(レ)152号 判決 1963年4月18日

判   決

東京都江東区北砂町四丁目一、二四二番地

控訴人

三木シン

右訴訟代理人弁護士

橋本市次

同町二丁目一八六番地

被控訴人

二見兵造

右訴訟代理人弁護士

成田哲雄

右当事者間の昭和三七年(レ)第一五二号土地所有権確認等請求控訴事件について、当該裁判所は次のとおり判決する。

主   文原判決を取消す。

本件訴訟は、昭和三四年一月二八日原審において成立した裁判上の和解により終了した。

原審における控訴人の同年九月九日付期日指定申立後の訴訟費用及び第二審における訴訟費用は、いずれも控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取消す。別紙目録第二記載の土地が、控訴人の所有であることを確認する。被控訴人は、右土地につき東京法務局墨田出張所昭和三一年二月二〇日受付第二、七九〇号をもつてした、所有権移転請求権保全仮登記の抹消登記手続をせよ。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は控訴棄却の判決を求めた。(以下省略)

理由

職権をもつて、本件訴訟が和解により終了したか否かについて判断するに、本訴につき、原審における第一四回口頭弁論期日である昭和三四年一月二八日当事者間に裁判上の和解が成立し、その和解調書の和解条項の記載が、別紙和解条項記載のとおりであることは記録上明白であり、右和解条項第四項第三行目の「被告」なる記載は、同第二項第二行目の「被告」の記載とともに、原裁判所書記官が、いつたん「原告」と記載して調書を作成しその正本を当事者に送達した後これを「被告」と訂正し記載したものであることは、本件記録の和解調書中右部分の記載の仕方、原審及び当審における証人(省略)の各証言により認めることができる。ところで、裁判上の和解がいつたん調書に記載され、その正本が当事者に送達された後は、和解調書の記載は確定判決と同一の効力を生ずるから、調書の記載の訂正は、みだりに許すべきではないといわなければならないが、しかし調書の記載に誤りのあることが後に判明した場合にも、その訂正を絶対に許さぬものとすることは適当ではなく、その誤謬が和解調書の記載自体又は和解成立当時の記載にあらわれた訴訟資料から明白である場合はもちろん、和解成立後その効力が争われて口頭弁論が開かれ、証拠調の結果その誤謬が明白となつたような場合にも、更正決定によりその誤謬の訂正を許すのが相当であり、(なお、和解の効力自体については判決において判断されることはいうまでもない。)。しかもこのように訂正の許される場合には、更正決定の方法によらず、直接調書の記載を訂正したとしても、和解そのものの効力には影響がないものというべきである。なんとなれば、成立した和解の内容が記録により明らかである限り、和解調書の記載に明白な誤謬があり、またこれを訂正する方法に違法があつたとしても、和解そのものを無効とすべき理由はないからである。

そこで、本件についてこれをみるに、右訂正された和解条項第四項の「被告」の記載は、これを訂正前の「原告」として和解条項の全部を通読してみると、前後相矛盾し、特に第三項と第四項とで、第三項記載の土地七坪九合九勺を東京都から払下げを受けた場合と、受けられなかつた場合とに書き分けた理由や、第四項の「本登記」うんぬんの記載も理解しがたくなること等からみても、訂正前の右「原告」は第二項の訂正前の「原告」とともに「被告」の誤謬であることが、和解条項の記載自体から明白であるというべきであり、また右調書の作成された期日前すでに提出されて記録にあらわれている甲第二号証の記載等と対照してみても右記載が誤謬であつたことは明白であるといわなければならない。のみならず、(証拠―省略)を総合すると、次の事実が認められる。すなわち、本訴における争点は、先に成立した控訴人主張の東京高等裁判所における和解の和解条項第四項の払下手続に被控訴人が協力したか否かにあつたところ、被控訴人側にも相当の言い分があつたので、払下手続をやり直すことになり、本件和解が成立したが、当事者間の争いが右のような点にあつたところから、和解条項は、払下手続をなす期間を昭和三五年三月末と延長したほか、右高等裁判所における和解条項と同一の内容のものとしたこと、従つて、本件和解条項第四項は、右高等裁判所における和解条項第五項に相当し、被告(被控訴人)において、前記期間内に本件和解条項第三項記載の土地の払下手続を受けることができない場合、又は右期間中であつても、払下申請に対する不許可が確定したときは、第二項記載のとおり、別紙目録記載第二の土地の所有権が被告に存することを再確認すると共に、原告(控訴人)は、第三項記載の仮登記(右高等裁判所の和解条項第三項によりなされたもの。) の本登記手続をなすこと、を定めたものであること、右和解条項は、被控訴人の訴訟代理人であつた脇田久勝弁護士の作成した草案(甲第八号証中、第二項但し書のペン字の部分を除いたもの。) を基にして作られたものであるが、右草案をそのまま記載したものではなく、これを更に裁判所及び当事者間で検討し、数ケ所につき修正を加えた上、前記のような内容のものとして双方諒解の上仕上げられたもので、ただ、本件和解調書の和解条項第四項第三行目の記載が当初「原告」となつていたのは、同第二項第二行目の「原告」とともに、右和解草案の記載が誤つてそのようになつていたところから、係書記官が和解調書を作成する際「被告」と記載すべきをそのまま誤つて「原告」と記載したためであることが認められ、右認定に反する原審並びに当審における証人(省略)の証言は措信し難く、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。

そうだとすると、訂正前の和解調書の記載は、同調書記載の和解条項の趣旨及び従前の訴訟資料に徴し明白な誤謬であるのみならず、その後の証拠調の結果に照らしても、明白な誤謬であり、成立した和解の内容は、本件和解調書の記載と合致することが明らかであるから、たとえその記載の訂正手続に違法があるとしても、他に無効原因の認められない本件においては、右和解は裁判上の和解としての完全な効力を有し、本件訴訟はこれにより終了したものというべきである。(被控訴代理人は、本件和解が無効であることは争わないと述べているが、同代理人は、また、本件和解が訂正後の記載どおりの内容で成立したものであると主張していることは、事実摘示に記載のとおりであり、上記のとおり、その事実の認められる以上、本件和解は有効に成立し、これにより本訴は終了したものというべく、その効力は当事者の法律上の見解によつて左右されないものと解すべきであるから同代理人の右陳述は上述の判断に影響を及ぼさないというべきである。)しからば、右と見解を異にして、本案につき審理を続行してなした原判決は不当であるからこれを取消すこととし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第二部

裁判長裁判官 位野木益雄

裁判官 田 嶋 重 徳

裁判官 桜 林 三 郎

和解条項

一、原被告間の東京高等裁判所昭和二九年(ネ)第一、五六三号土地所有権確認登記履行請求控訴事件につき、昭和三〇年一〇月一三日東京高等裁判所第一〇民事部において成立した和解調書の和解条項は、第二項以下に定めるところに改めるものとする。

二、原告は被告に対し後記目録第一及び第二の土地が、昭和二三年一一月一八日附売買により被告に所有権が移転したことを認めること。

三、被告において後記目録第一の土地(添付図面中(イ)をもつて表示の部分)の東側に属する土地七坪九合九勺(添付図面中(ロ)をもつて表示の部分)を東京都から払下を受けた時は、被告は原告に第二の土地(添付図面中(ハ)をもつて表示の部分)につき、即時所有権を移転し、登記簿中昭和三一年二月一〇日受附第二、七九〇号に記載の仮登記の抹消登記手続をなすこと、

四、被告において、昭和三五年三月末日迄に前項の土地払下を受けることができない場合又は其の期間中と雖も不許可が確定した時は、後記目録第二の土地の所有権が被告に存することを確認し、直ちに右第二の土地につき昭和三〇年一〇月一三日(東京高等裁判所において和解が成立した当日)附売買による本登記をなすこと。

但し、其の筋に対する払下手続は被告がなし、原告はこれに協力すること。

五、原告は本条項第二項の土地払下代金及び手続費用を負担し、若し被告において、右払下代金及び費用を支出した場合は、一週間以内に原告は、右支出金を被告に支払うこと。

六、原告は、被告に対し、水道附設費用として金一七、〇〇〇円及び本件地上家屋移転費用として金一〇、〇〇〇円を昭和三四年三月三一日限り支払うこと。

七、第二項に定めたる払下を受くることができなかつた場合は、前項の水道附設費用、家屋移転費用を即時原告に返還すること。

八、第二項の払下を受けた場合は、払下確定後三ケ月以内に後記目録第二の土地上に有する被告所有の木造トタン葺平家建一棟一戸、建坪約七坪の建物を収去して右土地を原告に明渡すこと。

九、当事者間双方は相手方に対し、相互にその余の請求をなさざること。

一〇、原告は、被告に対し、原告が第二目録記載の土地に対し、昭和三三年二月一七日受附第四、二六九号をもつて、東京法務局墨田出張所になしたる順位第二番の仮登記は、昭和三四年一月末日限り抹消登記手続をなすこと。

一一、訴訟費用は各自弁のこと。

目録および添付図面<省略>

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